『時々タイムスリップ』 HAPPY 成人式編
エレベータで上ってゆくのは、マフラーぐるぐる巻きの僕。
階段を降りてゆくのは、華やかな着物の女性。
すれ違いざまに思い出したのは、、今日は成人式。
大陸から吹き出す筋状の雲は、1月らしく関東を冷たく包み込んでいた。
そうか、今日は成人式か。
ふふふ、、今年も大山のことを思い出してしまった。
自分は成人式の日、スキー場にいた。
大学進学で岩手に住んでいた僕は、お金がなくて成人式の日に福岡に帰れなかったんだ。
せっかくの成人式だからと、同じように実家に帰れなかった友人とスキーに行くことにした。
僕らが住む村の回りには、パウダースノーのスキー場がたくさんあったけんね。
ゲレンデっていいよね。
真っ白で広くて楽しい雰囲気にあふれていて。
女性なんて3割くらい可愛いさが増して見えるよね(笑)。
フリーマーケットで1500円で買ったスキーセットを見にまとい、僕らはいざリフトへ向かった。
「おい、有田ぁー」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには同じクラスの大山がいた。
彼女は陸上競技の投げ物(ホーガン、槍)の強者で、体格も性格も勢いがあり、やっぱり陸上部に所属していた。
クラス制という珍しい大学の中、僕と大山はわりと仲がよかった。
学校の帰り道で自転車バトルをしたこともあったし(彼女はすごく早い)、大山のアパートにも遊びに行ったこともあった。
20歳くらいの男が同じ年頃の女性のアパートに一人で遊びにゆくというのは、すごく緊張するものである。僕もそうだった。
だけど大山の部屋は恐ろしく質素で、勉強机や棚も、よく小学校の先生が使うコクヨの灰色の机の廃棄になったものをもらってきたやつが置かれていて、実に家庭的だった。
向かい合うテーブルの真ん中に『RED』というウイスキー(激安悪酔い)がドスンと置かれ、「今夜は飲むべ!」と言われた時、こいつとなら朝まで飲めると思った。
案の定、酔った彼女はさらに豪快だった。
「有田ぁ〜、お前、お金ないんならおれん家に洗濯しにきていいぞ!一回50円だけどな。」
「有田ぁ〜、お前、お金ないんならおれん家に風呂は入りにきていいぞ!一回100円だけどな。」
大山と僕の笑い声(7:3)は、星のきれいな岩手の夜空に溶けていった。
成人式にスキー場で偶然出会った僕らは、一緒に滑ることにした。
なのに、、
大山は、リフトに並ばずにスキー板を担いでゲレンデを登り始めたんだ。
・・・
何をやってるんだと叫ぶ僕らに、「バカヤロー!リフト券なんか買ってられっかー!」と叫び返した。
大山は、リフト券代2千数百円をうかせるために自力で登って滑るつもりなのだ。
なんてヤツだ…
僕はスキーはあまり好きじゃない。
なぜなら寒いからだ。
滑走の時はそりゃ楽しいよ。
だけど問題はリフト。
これが寒くて暇なんだ。
いつもプラプラと板の付いた足を揺らしながら、タバコを吸っていた(当時は喫煙者)。
人もまばらなゲレンデは白、白、白。
スピーカーから流れる有線ソングは、柔らかくこだまして。
ザザァー
ザザァー
やっぱりスキーは楽しいよね!
数回滑って、再び暇なリフトで足をプラプラ。
あれはウサギの足跡、あれは狐の足跡、あっちはネズミの足跡。
あ、、
僕は、スキー板を担いで黙々とゲレンデを登っている大山を見つけた。
「おーーい!!おーやまー!!」
大山はこっちを見て嬉しそうにブンブンと手を振った。
僕も嬉しくなって、ブンブンと手を振りかえした。
ロッジで休憩した僕らは、ラスト一本は一番上から滑ろうとリフトに乗りこんだ。
リフトは数回に乗り継ぎができて、上に行けば行く程コースが難しくなる。
僕はいつも1回乗り継ぎくらいで、早く滑りたくなって降りてしまうのだけど、最後は頑張った。
上の方はさらに寒いが、景色もいい。
岩手山から続く、白とみどりの広大な八幡平なんて最高だよ。
しかしそこで見たすごい景色は、断崖を渡るカモシカでもシャケをくわえた熊でもなく、いまだ登り続けている大山だった。
・・・
なんてヤツだ。
もはや登山やんか。
そのとき僕は悟った。
こいつ、一番上まで行くつもりなんだと。
なんて女だ。
最高所からのスキーを終え(ほぼ転がり落ちた)、満足した僕らは帰路についた。
スキー帰りの車は暖かく、ポーっとしてて気持ちいいんだ。
これが僕らの成人式だった。
あの時、、
彼女が山頂にたどり着いて見た景色は、僕が山頂にたどり着いて見た景色とは違っていただろう。
彼女が受けたゲレンデの風は、僕が受けたゲレンデの風とは違っていただろう。
世の中とは、もしかしたらわりと平等にできているのかもね。
成人式から3年が経ち、卒業式。
素敵な恋をしたのかな。
大山は、見違える程美人になっていた。
変わらないことは2つ。
あの時、大山がどこまで登ったかは知らないまま。
もう一つは、成人式の日には今だに大山を思い出すということ。
リフトで上ってゆくのは、足プラプラの僕。
ゲレンデを最高の気分で滑ってゆくのは、きれいになった彼女。
目を閉じて浮ぶのは、、そうゆう絵。
僕らは、HAPPYな成人式を迎えてたんだね。
【都心は赤坂。冬晴れの下、新宿に手を振る】
最近はめきめきと寒い。
風邪ひかんごとせんとね。
階段を降りてゆくのは、華やかな着物の女性。
すれ違いざまに思い出したのは、、今日は成人式。
大陸から吹き出す筋状の雲は、1月らしく関東を冷たく包み込んでいた。
そうか、今日は成人式か。
ふふふ、、今年も大山のことを思い出してしまった。
自分は成人式の日、スキー場にいた。
大学進学で岩手に住んでいた僕は、お金がなくて成人式の日に福岡に帰れなかったんだ。
せっかくの成人式だからと、同じように実家に帰れなかった友人とスキーに行くことにした。
僕らが住む村の回りには、パウダースノーのスキー場がたくさんあったけんね。
ゲレンデっていいよね。
真っ白で広くて楽しい雰囲気にあふれていて。
女性なんて3割くらい可愛いさが増して見えるよね(笑)。
フリーマーケットで1500円で買ったスキーセットを見にまとい、僕らはいざリフトへ向かった。
「おい、有田ぁー」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには同じクラスの大山がいた。
彼女は陸上競技の投げ物(ホーガン、槍)の強者で、体格も性格も勢いがあり、やっぱり陸上部に所属していた。
クラス制という珍しい大学の中、僕と大山はわりと仲がよかった。
学校の帰り道で自転車バトルをしたこともあったし(彼女はすごく早い)、大山のアパートにも遊びに行ったこともあった。
20歳くらいの男が同じ年頃の女性のアパートに一人で遊びにゆくというのは、すごく緊張するものである。僕もそうだった。
だけど大山の部屋は恐ろしく質素で、勉強机や棚も、よく小学校の先生が使うコクヨの灰色の机の廃棄になったものをもらってきたやつが置かれていて、実に家庭的だった。
向かい合うテーブルの真ん中に『RED』というウイスキー(激安悪酔い)がドスンと置かれ、「今夜は飲むべ!」と言われた時、こいつとなら朝まで飲めると思った。
案の定、酔った彼女はさらに豪快だった。
「有田ぁ〜、お前、お金ないんならおれん家に洗濯しにきていいぞ!一回50円だけどな。」
「有田ぁ〜、お前、お金ないんならおれん家に風呂は入りにきていいぞ!一回100円だけどな。」
大山と僕の笑い声(7:3)は、星のきれいな岩手の夜空に溶けていった。
成人式にスキー場で偶然出会った僕らは、一緒に滑ることにした。
なのに、、
大山は、リフトに並ばずにスキー板を担いでゲレンデを登り始めたんだ。
・・・
何をやってるんだと叫ぶ僕らに、「バカヤロー!リフト券なんか買ってられっかー!」と叫び返した。
大山は、リフト券代2千数百円をうかせるために自力で登って滑るつもりなのだ。
なんてヤツだ…
僕はスキーはあまり好きじゃない。
なぜなら寒いからだ。
滑走の時はそりゃ楽しいよ。
だけど問題はリフト。
これが寒くて暇なんだ。
いつもプラプラと板の付いた足を揺らしながら、タバコを吸っていた(当時は喫煙者)。
人もまばらなゲレンデは白、白、白。
スピーカーから流れる有線ソングは、柔らかくこだまして。
ザザァー
ザザァー
やっぱりスキーは楽しいよね!
数回滑って、再び暇なリフトで足をプラプラ。
あれはウサギの足跡、あれは狐の足跡、あっちはネズミの足跡。
あ、、
僕は、スキー板を担いで黙々とゲレンデを登っている大山を見つけた。
「おーーい!!おーやまー!!」
大山はこっちを見て嬉しそうにブンブンと手を振った。
僕も嬉しくなって、ブンブンと手を振りかえした。
ロッジで休憩した僕らは、ラスト一本は一番上から滑ろうとリフトに乗りこんだ。
リフトは数回に乗り継ぎができて、上に行けば行く程コースが難しくなる。
僕はいつも1回乗り継ぎくらいで、早く滑りたくなって降りてしまうのだけど、最後は頑張った。
上の方はさらに寒いが、景色もいい。
岩手山から続く、白とみどりの広大な八幡平なんて最高だよ。
しかしそこで見たすごい景色は、断崖を渡るカモシカでもシャケをくわえた熊でもなく、いまだ登り続けている大山だった。
・・・
なんてヤツだ。
もはや登山やんか。
そのとき僕は悟った。
こいつ、一番上まで行くつもりなんだと。
なんて女だ。
最高所からのスキーを終え(ほぼ転がり落ちた)、満足した僕らは帰路についた。
スキー帰りの車は暖かく、ポーっとしてて気持ちいいんだ。
これが僕らの成人式だった。
あの時、、
彼女が山頂にたどり着いて見た景色は、僕が山頂にたどり着いて見た景色とは違っていただろう。
彼女が受けたゲレンデの風は、僕が受けたゲレンデの風とは違っていただろう。
世の中とは、もしかしたらわりと平等にできているのかもね。
成人式から3年が経ち、卒業式。
素敵な恋をしたのかな。
大山は、見違える程美人になっていた。
変わらないことは2つ。
あの時、大山がどこまで登ったかは知らないまま。
もう一つは、成人式の日には今だに大山を思い出すということ。
リフトで上ってゆくのは、足プラプラの僕。
ゲレンデを最高の気分で滑ってゆくのは、きれいになった彼女。
目を閉じて浮ぶのは、、そうゆう絵。
僕らは、HAPPYな成人式を迎えてたんだね。
最近はめきめきと寒い。
風邪ひかんごとせんとね。
by a_kessay | 2008-01-15 01:48