湯けむりタイムスリップ

入り口に「大正館」と木の看板の雰囲気がよかった。
そこはずいぶん前に旅をした時に、ようやくたどり着いた北国の小さな旅館だった。

湯気だらけの浴場でポカポカになった僕は、一人では広すぎる和室へ戻る。
オフシーズンで静かな旅館にみしみしと足音が響けば、つい忍び足になってしまうよね。

でっかいテーブルに、ぬるいお茶。
座椅子に和菓子、座布団に100円テレビ。
タバコの煙は青白くすーっと伸びてフルフルと揺れ、やがて天井に広がっていく。

ポロロン…

再びギターを弾くがやっぱり何も出てこない。

はぁ

パコっ、もはやワンカップである。

しかしすごい気だ。
この土地全体がすごいパワーで「しーん」としている。

丸く、あまりしゃべらない女将が敷いてくれた布団に入り、電気は二回引っぱりナツメ球。
旅先の寝床でじっと見る天井は、とてつもなく寂しくなる時があるんだ。
一人旅なのに、不安はどうしてもついてくるのね。

そんな時は、窓の外を見ればいい。
星がきれいかったりするけんね。

酔いも冷め、なんだか寝るのがもったいない。
だけどやがて眠るんだ。
明日行く、知らぬ町を夢見て。


時は今。
ゆっくり目を開けるとロウソクが2本、入浴剤を入れた自宅の風呂場の湯気のなかで静止している。
妄想のおかげで、たまに落ちてくる水滴爆弾も気持ちいいくらいにポカポカになったよ。

はぁ〜

柔らかい明かりは湯気で反射し合い、まるでおぼろ月みたい。
ちゃぱちゃぱとお湯をゆらせば、ロウソクもゆらゆら。
そして目を閉じれば、小さな僕の風呂場は再びタイムスリップ。
また別世界さ。


そろそろ旅に出ないとなぁ。


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by a_kessay | 2007-02-07 23:41  

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